細胞間コミュニケーションで食料不足に備える

2024年9⽉24⽇

使いづらい窒素源を利用するように代謝を変える仕組みを解明

酵母が増殖するには窒素源が必要ですが、環境中に使いやすい窒素源があると、使いづらい窒素源の取り込みや代謝経路を抑制し、より効率的に使いやすい窒素源を利用します。使いやすい窒素源が枯渇すると、酵母は使いづらい窒素源を取り込んで代謝を切り替えるようになります。フリードリッヒ・ミーシャー生物医学研究所および理研 環境資源科学研究センターの研究者らを中心とする国際共同研究は、酵母細胞集団が化学物質を介して細胞間でコミュニケーションを行い、使いやすい窒素源の枯渇の前にそれを予期して使いづらい窒素源の取り込みを促進することを発見し、その仕組みを解明しました。

微生物は複雑なコミュニケーションシステムを進化させてきました。研究チームは以前、酵母細胞間のコミュニケーションにおいて、「窒素シグナル因子(NSF)」と呼ばれる分子が重要な役割を果たしていることを明らかにしていました。今回の研究で、NSFの濃度が変化することで酵母の遺伝子発現が変わり、窒素源の利用切り替えが促進されることがわかりました。さらに、NSFが酵母のエネルギー供給の場であるミトコンドリア内の特定のタンパク質と相互作用することで、酵母が窒素源の変化に適応して生育できることが確認されました。この知見は、モデル生物である分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)を用いて明らかにされたもので、同様の生存戦略が他の種でも保存されている可能性があります。

原論⽂情報
EMBO Journal doi: 10.1038/s44318-024-00224-z
S. Ohsawa, M. Schwaiger, V. Iesmantavicius, R. Hashimoto, H. Moriyama, H. Matoba, G. Hirai, M. Sodeoka, A. Hashimoto, A. Matsuyama, M. Yoshida, Y. Yashiroda, M. Bühler,
"Nitrogen signaling factor triggers a respiration-like gene expression program in fission yeast".
お問い合わせ
ケミカルゲノミクス研究グループ
吉田 稔(グループディレクター)
分子リガンド標的研究チーム
八代田 陽子(副チームリーダー)